大判例

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東京家庭裁判所 事件番号不明 判決

本籍 山形県最上郡真室川町平岡百二番地

住居 東京都台東区浅草新吉原江戸町二丁目七番地

特殊カフエー営業 高橋ユリ 大正十四年五月二十五日生

主文

被告人を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は肩書住居において特殊カフエー二見を経営している者であるが、昭和三十年八月十九日右二見の従業婦として雇入れた満十八才にならないH子ことE子(昭和十三年一月二十二日生)をして、同日から同月二十三日頃までの間、右二見において不特定多数の遊客を相手に売春させ、以て児童に淫行をさせたものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公廷における供述

一、被告人の司法警察員ならびに検察官に対する各供述調書

一、E子に対する証人尋問調書

一、同人の検察官に対する供述調書謄本

一、同人に関する身上調査の照会に対する回答謄本

一、岸静江の検察官に対する供述調書

(被告人及び弁護人の主張に対する判断)

被告人及び弁護人はE子を雇入の際、同人はH子と自称し、生年月日は昭和七年二月二十日であり、本籍は群馬県○○郡○○村○○千○百○十○番地であると申し立てたので、被告人は右申立に基き、直ちに本籍地役場よりH子の戸籍謄本を取り寄せる手続をとり、昭和三十年八月二十四日頃右戸籍謄本の送付を受け、これによつて本人の年齢を調べた結果満十八才を超えていることを認めたものであつて、被告人としてはE子が満十八才未満であることを知らなかつたし、また右の次第であるからこれを知らなかつたことについて過失もない旨主張するので此の点について判断をする。先ず本件の事実関係として被告人が昭和三十年八月十九日E子を従業婦として雇い入れ、その頃から同年十月中旬頃まで同女を使用して自宅で売春に従事させたこと、E子を雇入の際同女が被告人の主張するように、氏名をH子年齢を昭和七年生、本籍を群馬県○○郡○○村○○と詐つて、自己の従姉H子の氏名、生年月日を自己のそれとして申立てたこと、被告人はE子が偽名を用いているとは知らずにその年齢確認のため右○○村役場にH子の戸籍謄本取寄の手続をとり、被告人主張の頃その送付を受けたこと、及び被告人はE子の申し立てる生年月日や家族関係などが右戸籍謄本の記載と符合していることを確め、同女の年齢が満十八才を超えているものと信ずるに至つたことはいずれも前顕証拠によつてこれを認めることができる。

そこで被告人の前記戸籍謄本取寄の方法による年齢調査の措置が児童の年齢不知につき過失のない場合にあたるかどうかについて考察するに、児童福祉法第六十条第三項但書にいわゆる児童の年齢を知らざるにつき過失なしとするには使用者が被用者たる児童の戸籍謄本又は抄本等について、その生年月日を調べたとか、或は親許照会をなして年齢を確めて見たとか、その他確実性ある調査方法を一応講じたことを要するものと解するを相当とするところ、本件において被告人はE子が前記の如く氏名を詐称したため、同女をH子と云うものと思い、H子の戸籍謄本を取り寄せてE子の生年月日を調べたのであるから、客観的にはその調査はE子に非る他人の戸籍謄本で他人の年齢を調べたに過ぎず、E子本人の年齢の調査を履践したことにはならないと云えるが、斯様に被告人のなした年齢の調査が結果的には全く無効なものに帰したのも、それはE子が巧みに偽名を用いたことに因るもので、此の点のみを促えて被告人の調査の仕方が不十分であつたと咎めるのは当らない。むしろ、被告人としては戸籍謄本の取寄による調査が最も確実な方法であると考えて前記の措置をとつたものと推認するのが相当であり、且つ右謄本取寄の手続も時間的にはE子の雇入後遅滞なくとつておると認められるし、なおE子の証言によると、被告人においても戸籍謄本の取寄以前はE子がその申し立てた年齢の割に若いと思つていたことが窺はれ、またE子の証言によると同女は被告人より生年月日、本籍を尋ねられた際単に昭和七年生とだけ答え、また本籍についても番地までは詳しく云はなかつたことも明かであるが、斯る事情があつたからと云つて、被告人がE子が偽名を用い或は年齢を詐称していたことについて疑をもつていたと認める資料となすには足りないし、またE子の申し立てた年齢とその真実の年齢との差は満五年以上に及んでいたとしても人の容姿や体格と年齢とは必ずしも一致するものではなく被告人方のH子名義の従業員名簿に添附されているE子のその当時の写真から判断しても、E子が氏名年齢等を詐つていることに被告人が特に疑いを持たなかつたことを責めるのは酷に失すると謂うべきである。その他被告人が前記戸籍謄本取寄の前後においてE子が偽名を用い或は年齢を詐つていることについて何らかの疑惑を抱いていた形跡を認めるに足る証拠のない本件においては、被告人が前記認定のとおりE子をH子と云う者であると思い、同女の戸籍謄本を取り寄せてE子の年齢を調べた措置は、恰も被告人がE子本人の戸籍謄本を取り寄せてその年齢を調べて見た場合と同様に児童の使用者として通常とるべき調査の方法を一応講じたものとして過失がなかつたものと認めるのが相当である。されば本件公訴事実中被告人が前記戸籍謄本の取寄をしてE子が満十八才を超えているものと思うに至つた昭和三十年八月二十四日以降の被告人の本件児童福祉法第三十四条第一項第六号該当の行為は同法第六十条第三項但書の規定により罪とならないものと謂うべきである。しかし被告人はE子を雇い入れた即日より既に同女をずるずると淫行に従事させていたことは冒頭に認定したとおりであつて、被告人としてはE子の年齢を調べその制限年齢を超えているかどうかを確める手続を履むまでは同女を淫行に従事させずにおくべきであつたにも拘らずその配慮を怠り同女をして慢然と売春させていた点は同女の年齢知情について故意はなくとも過失がなかつたとは到底認められず、従つて被告人がE子を雇い入れた昭和三十年八月十九日以降被告人が前記の如く戸籍謄本を取り寄せた日の前日である同月二十三日頃までの間における被告人の所為に対してはその罪責は免れ得ないものと謂わねばならない。

(法令の適用)

法律に照すと被告人の判示所為は、児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項第三項本文に該当するので所定刑中罰金刑を選択しその金額の範囲内で被告人を罰金五千円に処することとし、被告人が右罰金を完納することができないときは刑法第十八条に則り金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り被告人をして負担させることとする。

なお本件公訴事実は被告人が昭和三十年八月十九日頃より同年十月中旬頃までの間児童であるE子をして淫行に従事させた所為を包括一罪として起訴したものと認められるので前記一部無罪の点については特に主文においてその言渡をしない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 市川郁雄)

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